在庫評価方法について
1.在庫評価方法とは
企業の商品在庫を資産としてお金に換算する方法のことを指します。
通常、企業は決算日に棚卸を行い、抱えている在庫数と「在庫評価方法」によって計算された商品1個当たりの単価をかけて金額を算出します。
つまり、「在庫評価方法」とは在庫1個当たりの単価を算出する方法です。
在庫評価方法は7種類あります。以下の図は評価方法の全体像です。
企業はいずれかの評価方法を使って在庫金額を計算しています。
一般的には「最終原価仕入法」が適用されますが、届け出を税務署に提出すれば他の評価方法に変更することが可能です。企業は自社の扱う商材価値を適切に計算できる評価方法を選択して在庫金額を計算します。
※評価方法変更の届出
評価方法が変わると、在庫単価も変わります。
そもそも評価方法が7つもあるのは資産価値を適切に図るためですが、企業は「業務負荷が軽くなる(なるべく計算が簡単)」かつ「税務署に怒られない」方法で在庫評価を行います。どうして税務署が絡んでくるかというと、評価方法を決めることは売上原価を決めることにもなるため、最終的には利益が変わるためです。
税金は利益から徴収されますので、税務署は適切な在庫評価が行われているか目を光らせているのです。
では、それぞれの在庫評価方法がどんなものなのか順番に見ていきましょう。
2.最終原価仕入法
決算日に最も近い日に取得した仕入単価を在庫単価にする方法です。
計算方法がとても簡単だというメリットがありますが、在庫の取得単価にばらつきがある場合、最後に取得した仕入単価を採用するため、他の仕入単価との差が出てくるというデメリットがあります。
以下の取引例において、最終原価仕入法による在庫単価は160円となります。
⓪月初、商品Aの売れ残りが20個@110円
①商品Aを50個@100円で仕入
②商品Aを20個@120円で売上
③商品Aを10個@160円で仕入
④商品Aを 5個@120円で売上
3.個別法
取得原価の異なる在庫を区別して記録し、その個々の仕入原価によって在庫単価を決める方法です。宝石や芸術品などの1点ものの商材等の在庫単価を決めるのに適切な方法です。
③ゴッホの絵を1個1億2,000万円で売上
上記の取引例の場合、在庫単価はそれぞれ
ピカソの絵:@5,000万円
ゴッホの絵:@1億円
ラッセンの絵:@8,000万円
となります。
4.先入先出法
仕入した日付の古い順に払出されていく考え方に基づいて評価する方法です。
以下の取引例で説明します。
①商品Aを50個@100円で仕入
②商品Aを30個@110円で仕入
③商品Aを40個@120円で売上
④商品Aを25個@130円で売上
⑤商品Aを10個@120円で仕入
※時系列順に並んでいると思ってください。
ポイントはどの単価で仕入した商品が出ていったか、を仕入した順番で決めていきます。
③で40個売り上げていますので、①で仕入した50個@100円の在庫は残り10個@100円として考えます。
続いて④で25個売り上げていますので①で仕入した残在庫10個@100円がまず出ていき、残り15個は②で仕入した30個@110円の在庫から引きますので、残った在庫は15個@110円となります。
期末在庫の金額は 15個×110円 + 10個×120円 = 2,850円 と計算されます。
5.月次総平均法
期首在庫金額と当月仕入高を在庫数量で平均して計算する方法です。
言葉より、式と例を見た方がわかりやすいです。
【取引例】
⓪月初、商品Aの売れ残りが20個@110円
①商品Aを30個@100円で仕入
②商品Aを20個@120円で売上
③商品Aを50個@160円で仕入
④商品Aを5個@120円で売上
上記の取引例に月次総平均法で求めると
在庫単価は132円となります。
期末の在庫金額は売れ残りが80個あるので
80個 × 132円 = 10,560円 となります。
6.移動平均法
移動平均法は仕入の都度、平均単価を計算して在庫単価とする方法です。
【取引例】
⓪月初、商品Aの売れ残りが20個@110円
①商品Aを30個@100円で仕入
②商品Aを20個@120円で売上
③商品Aを50個@160円で仕入
④商品Aを5個@120円で売上
仕入の都度平均単価を計算するため、この例では①③のときに求めることになります。
①の仕入で在庫単価は104円です。
③の仕入で在庫単価は139円
※30個×104円の30個は③の時点での在庫数になります。
期末の在庫金額は売れ残りが75個あるので
75個 × 139円 = 10,425円 となります。
※補足ですが、月次総平均の場合、月末在庫単価は132円となります。
7.売上原価還元法
原価率を先に計算して、商品の売価から評価する方法です。
これだけ聞いてもわからないと思いますので、具体的に計算していきます。
まず計算方法をざっくりというと、以下になります。
①期末在庫の売価を決めます。
②原価率を求めます。
③原価率から在庫単価を求めます。
では下記の取引例で①~③まで順番にやっていきましょう。
⓪月初、商品Aの売れ残りが20個@110円
①商品Aを50個@100円で仕入
②商品Aを20個@120円で売上
③商品Aを10個@160円で仕入
④商品Aを5個@120円で売上
⑤棚卸の結果、商品Aが55個@?円
①期末在庫の売価を決めます。
今回は120円と決めましょう。
※この売価は商品グループ単位に決められたりするようです。
②原価率を求めます。
原価率=(当月仕入高+期首在庫金額)/(売上高+期末在庫売価金額)です。
当月仕入高 =5,000+1,600 = 6,600円
期首在庫金額=2,200円
売上高=2,400+600 = 3,000円
期末在庫売価金額=120 × 55=6,600
よって原価率=8,800/9,600 = 11/12となります。
③原価率から在庫単価を求めます。
在庫単価=120×(11/12) = 110円
売上原価=3,000×(11/12)=2,750円
期末在庫金額=110×55 = 6,050円
となります。
最初は何をやっているのかわからないかもしれませんが、この方法のポイントは「原価率」にあります。売価を計算し、期首在庫と当月仕入在庫がすべて売れたときの原価率を算出して、売価から原価を計算している、というイメージです。
8.低価法
ここまで原価法の在庫評価方法を見てきましたが、低価法にもこれまで説明してきた評価方法が適用されます。
低価法とは、在庫評価によって評価した棚卸資産の評価額と時価評価額のうち、低い方を採用する方法を言います。
低価法の例を月次総平均で考えていきます。
【取引例】
⓪月初、商品Aの売れ残りが20個@110円
①商品Aを30個@100円で仕入
②商品Aを20個@120円で売上
③商品Aを50個@160円で仕入
④商品Aを5個@120円で売上
⑤期末の時点で商品Aの時価評価単価は@100円
月次総平均による在庫単価は132円となります。
原価法の場合はこの単価から棚卸資産の評価額を求めますが、
低価法の場合は時価評価単価と比べて低い方を採用しますので、在庫単価は100円となります。
9.まとめ
とてもざっくりとではありますが、在庫評価方法について説明させて頂きました。
はじめはなかなかとっつきにくですが、覚えようとするより慣れることが大切だと思います。
私も覚えがよくない方なので、頭から引き出して使えるようになるまで半年ぐらい掛かった記憶があります。。。(←かかりすぎ。)
私の持っている簿記3級の参考書などではさらっとしか触れられていなかったのですが、会計を理解する上では大切な知識ですので、しっかりと理解しておく方がいいと思います。