三分法と分記法について
1.仕訳の記帳方法
記帳する際、仕訳の書き方にはいくつか決まった書き方があります。
知る限り、その方法は下記の4つになります。
1.三分法
2.分記法
3.売上原価対立法
4.総記法
日商簿記3級だと大体が三分法で回答するものが多いですが、たまに分記法も出題されるようです。残りの売上原価対立法、総記法はマイナーな記帳方法なので、今回は三分法と分記法について解説していきます。
まずは三分法、分記法それぞれの簡単な仕訳例からご紹介していきます。
2.三分法
「三分法 とは」でネット検索すると大抵次のような説明に出会うでしょう。
商品を「仕入」「売上」、そして、決算時に使用する「繰越商品」という三つに分割して記帳する方法のこと。
・・・。どうでしょうか?ピンときますか?勉強し始めたばかりの頃、私はピンときませんでした。記帳方法は言葉の定義を理解するよりも実際の仕訳例を見た方がピンときやすいです。
では、三分法の仕訳例です。下記のような取引ケースを仕訳にしてみましょう。
【取引例】
①商品Aを50個@100円で仕入
②商品Aを20個@120円で売上
【仕訳例】
①仕入 5,000 / 買掛金 5,000
②売掛金 2,400 / 売上 2,400
となります。三分法の定義通り、商品取引の仕訳を「仕入」・「売上」勘定科目を用いて記帳するのが三分法になります。たったこれだけです。
※「あれ?「仕入」・「売上」はあるけど「繰越商品」がないじゃないか」
と思われるかもしれませんが、順を追って説明するために今は省いています。
後ほど、「繰越商品」が出てきますのでお待ちください。
続いて分記法です。
3.分記法
ネットで検索すると大抵次のような説明がされています。
商品売買の仕訳を商品勘定(資産勘定)と商品販売益勘定(収益勘定)を使って記入する方法のこと
これもやはりピンとこないので、仕訳例を見ていきます。三分法のときと同じ取引を例にします。
【取引例】
①商品Aを50個@100円で仕入
②商品Aを20個@120円で売上
【仕訳例】
①商品 5,000 / 買掛金 5,000
②売掛金 2,400 / 商品 2,000
/ 商品売却益 400
となります。分記法の定義通り、商品取引の仕訳を「商品」・「商品売却益」勘定科目を用いて記帳するのが分記法になります。
4.三分法と分記法
先ほどの仕訳例を並べてみましょう。
(三分法) (分記法)
①仕入 5,000 / 買掛金 5,000 ①商品 5,000 / 買掛金 5,000
②売掛金 2,400 / 売上 2,400 ②売掛金 2,400 / 商品 2,000
/ 商品売却益 400
使われている勘定科目が違うことは一目瞭然。でもそれだけではなくて、それぞれの記帳方法にはメリット・デメリットがあります。上記仕訳を見ただけでそれが理解できますか?
勉強し始めの頃、私は、使用される勘定科目が違うという理解に留まっていました。しかし記帳方法において大切なのはそれぞれのメリット・デメリットまで理解することなのです。
続けますと、三分法と分記法のメリット・デメリットを一言で言うと、
「売上原価」が判明するタイミング
になります。
まず分記法ですが、
①商品 5,000 / 買掛金 5,000
②売掛金 2,400 / 商品 2,000
/ 商品売却益 400
見るだけでわかりますね。「商品 2,000」が売上原価を表しています。
一方で三分法では
①仕入 5,000 / 買掛金 5,000
②売掛金 2,400 / 売上 2,400
商品の売上に対していくら仕入した商品を消費したのかがわかりませんね。
三分法は月末にならないと売上原価がわからない記帳方法なのです。
では、次の取引内容を見ていきましょう。
【取引例】
(月中)
①商品Aを50個@100円で仕入
②商品Aを20個@120円で売上
(月末)
③棚卸の結果、商品Aが30個@100残った
【仕訳例】
(月中)
①仕入 5,000/買掛金 5,000
②売掛金 2,400/売上 2,400
(月末)
③繰越商品 3,000/期末商品棚卸高 3,000
先ほどと違い、③の仕訳が追加されています。
期末商品棚卸高とは月末時点の在庫評価金額になります。
【取引例】③から 30×100=3,000と計算されています。
売上原価は前月末商品棚卸高+当月仕入高ー期末商品棚卸高で求められるので、
0 + 5,000 - 3,000 = 2,000 となります。
5.企業で採用されている記帳方法
三分法と分記法の違いは売上原価のわかるタイミングだとお伝えしました。
三分法は月末、分記法は売上のタイミングで売上原価が判明します。
売上する度に粗利(商品売却益)がわかる分記法の方が企業にとってメリットがあるように思いますが、実際多くの企業では三分法が採用されています。
それはなぜでしょうか?
次の取引例を考えてみましょう。
【取引例】
①商品Aを50個@100円で仕入
②商品Aを20個@120円で売上
③商品Aを10個@160円で仕入
④商品Aを5個@120円で売上
分記法で仕訳をすると
①商品 5,000/買掛金 5,000
②売掛金 2,400/商品 2,000
商品売買益 400
③商品 1,600/買掛金 1,600
④売掛金 600/商品 ?
商品売買益 ?
さて、「?」はいくらになるでしょうか?これは在庫評価方法によって変わります。
今回は「移動平均法」で求めてみましょう。
移動平均法は商品の受入(仕入)をするたびに在庫単価を求める評価方法になります。
よって、①③の取引ごとに在庫単価を求めることになります。
※期首在庫数は0個とします。
①
よって①の取引時の在庫単価は100円となります。
③
よって③の取引時の在庫単価は110円となります。
よって「?」は
①商品 5,000/買掛金 5,000
②売掛金 2,400/商品 2,000
商品売買益 400
③商品 1,600/買掛金 1,600
④売掛金 600/商品 550
商品売買益 50
となります。
多くの企業で三分法が採用されている理由がわかりましたでしょうか?
分記法では売上の都度売上原価を計算する必要があるため、記帳にものすごく手間がかかるのです。
一方三分法だと、売上原価は月末の在庫評価の1回で算出できるため、お手軽なのです。
【取引例】
①商品Aを50個@100円で仕入
②商品Aを20個@120円で売上
③商品Aを10個@160円で仕入
④商品Aを5個@120円で売上
三分法で仕訳をすると
①仕入 5,000/買掛金 5,000
②売掛金 2,400/売上 2,400
③仕入 1,600/買掛金 1,600
④売掛金 600/売上 600
⑤繰越商品 ?/期末商品棚卸高?
月次総平均法で在庫評価すると、期首在庫を0として計算すると
在庫単価は110円となります。
売れ残りは35個なので、「?」は 35個 × 110円 = 3,850円。
よって売上原価は 5,000 + 1,600 - 3,850 = 2,750円となります。
いかがでしょうか。三分法の法が計算の手間が少なく効率的に求められますね。
今回の例は取引件数が少ないため、分記法でも対応できますが、実務となるとたくさんの取引が発生し、その都度在庫評価を行うのは現実的ではありません。
そのため多くの企業では三分法が採用されているのです。